top of page

比婆とその周辺の神楽の基本文献

 

◇神楽が好きで、比婆(広島県北東部/備後北部)と周辺地域を中心に見て回ってきました。そのうち、詞章やら文脈やら歴史やらが気になり始め、いろいろと文献を集めて調べたりするようになりました。私の場合は幸いにも、神楽を見始めてから早いうちにその筋の研究者の方々と知り合うことができ、様々な文献について教えていただいたり、時にはコピーや別刷をいただいたりしました。しかし、おそらく、自力で必要な文献を集めようと思ったら相当遠回りしたのは間違いありません。

◇それは、欲しい情報が書籍に掲載されているケースが多い上に、なおかつその書籍の目次や内容が一筋縄では調べられないことが多いためです。論文であれば、タイトルから扱っている内容が大まかに分かりますが、書籍ではそうはいきません。そして、ネット上にも情報がほとんどなく、得られるのは文化財としての紹介程度のものが精々です。つまり、(中国地方の)神楽になにかしら興味を持って調べようと思っても、そもそもそのための資料に取り付くまでに大きなハードルがあるのです。

◇私は現代っ子なので、Googleがないと生きていけないし、知りたい情報に最短経路で辿り着きたい。神楽関係の文献情報が集まったwebサイトがあったら最高だな?と思っても、無いものは無いし、誰かが作ってくれそうにもないので、自分でまとめることにしたのが、このページです。そんな訳で、比婆とその周辺(主に、備後、安芸、出雲、石見、備中)の神楽に関する基本的な文献を、ここに列挙・紹介します。

※ここに挙げられていない文献で、特に各神楽の台本や詞章、祭式などが収載されたものがあれば、ぜひ教えてください。

神楽全般

 

三村泰臣『中国・四国地方の神楽探訪』(南々社、2013年)

◇中国地方の神楽に興味を持ったらまずはこれ。各地にどんな神楽があるのか、大まかに知ることができる。

三村泰臣『中国地方民間神楽祭祀の研究』(岩田書院、2010年)

◇中国地方の民間神楽のうち、荒神信仰を基盤とした神楽祭祀に焦点を当てる。精力的なフィールドワークを基に調査・検討を加え、この地域の民間神楽祭祀がかつては悪神・悪霊を鎮送する「浄土神楽」と呼ばれ、死霊祭祀の場で行われてきたことを示す。石塚・牛尾・岩田といった先達らの研究の延長線上にある。

 

牛尾三千夫『神楽と神がかり』(名著出版、1985年)

◇特に大元神楽と比婆荒神神楽に焦点を当てた、中国地方の神楽に関する論考集。比婆荒神神楽の式年祭を、祖霊加入の儀式と見做した。著者は神職の家に生まれ、自らも大元神楽の伝承者であった。昭和40年に比婆荒神神楽を初めて目撃した民俗学者のひとりで、その顛末と衝撃を記した小文も収録されており、一読に値する。巻末の岩田勝による解説も注目。

 

石塚尊俊『西日本諸神楽の研究』(慶友社、1979年)

◇著者が昭和59年に提出した学位論文を刊行したもの。主に中国・四国・九州の神楽に関する論考。各地の神楽を概説し、それらの比較、現行の演目からの推察、史料分析を通じて、西日本の神楽の古態に迫る。中世期とされていた佐陀神能の成立年代について疑義を提起した、最初期の研究のひとつ。

 

石塚尊俊『里神楽の成立に関する研究』(岩田書院、2005年)

◇上記『西日本諸神楽の研究』の増補改訂という位置づけだが、内容的な重複は少なく、『西日本諸神楽の研究』の後に著者が発表した論考などをまとめたもの。中国地方各地の神楽で見られる「山の神」「切目」「五行祭」といった演目についての論考を含む。

 

岩田勝『神楽源流考』(名著出版、1983年)

◇「浄土神楽」という概念を提唱し、またマックス・ウェーバーの宗教社会学から神強制説を援用して、神楽を「託宣型」と「悪霊強制型」に分類し、従来の折口信夫による神座鎮魂説(籠りによって善神を体に付着させ、生まれ清まる)を更新した。神がかりを「囃す法者と懸る巫女」というセットで把握したことも大きな成果といえる。現在に至るまで神楽研究に多大な影響を与え続けており、中国地方のみならず、神楽という祭祀を考える上で避けて通れない書籍。

◇著者の本職は郵政公務員で、在野で神楽研究を行っていた。1970年代後半に「広島民俗」や「山陰民俗」などに立て続けに論考を発表し、それらを取りまとめたのが本書である。独学で史料を解読し、それらを体系づけ、従来の神楽研究を塗り替える業績を打ち立てたのは至高の領域と言っていいだろう。

 

岩田勝『伝承文学資料集成第16輯 中国地方神楽祭文集』(三弥井書店、1990年)

◇書名の通り、中国地方の神楽で用いられていた祭文の集成。それぞれの祭文についての解説も含む。

 

芸能史研究会編『日本庶民文化史料集成 第1巻 神楽・舞楽』(三一書房、1974年)

◇各地の神楽・舞楽関係の史料翻刻を収載。中国地方では以下のものが含まれている:

大原神職神楽(佐陀神能和田本)・隠岐神楽(隠岐神楽歌集)・大元神楽・石見柳神楽・比婆荒神神楽(備後東城荒神神楽能本集)・比婆斎庭神楽(備後比婆荒神神楽本)・弓神楽(甲奴郡上下町)・名荷神楽・芸北神楽・行波神楽。

『別冊太陽 お神楽 日本列島の闇夜を揺るがす』(平凡社、2001年)

◇各地の神楽を写真で紹介。中国地方では、佐陀神能・隠岐島前神楽・大元神楽・備中神楽が含まれている。

島根県古代文化センター編『中国地方各地の神楽比較研究』(島根県古代文化センター、2009年)

備後の神楽

比婆荒神神楽

東城町教育委員会編『重要無形民俗文化財 比婆荒神神楽』(東城町文化財協会、1982年)

岩田勝『郷土』39~43、45、46号(西城町郷土研究会)

◇「郷土」は西城町郷土研究会が発行していた会誌。同町内の社家である御崎家に所蔵されていた文書類のうち、神楽関係のものの翻刻が掲載。

 

山本ひろ子編「荒神の祭祀と神懸かり」(『別冊太陽 祭礼―神と人との饗宴』平凡社、2006年)

◇2005年に東城町の小室名で行われた大神楽の山本ひろ子によるレポートと、「竜押し」の詞章の解読が掲載されている。高柴順紀による大神楽復活の顛末も一読の価値あり。

比婆斎庭神楽

『比婆斎庭神楽』(比和町、1993年)

◇1993年に開催された特別展の展示解説。比婆斎庭神楽に関する資料としてよくまとまっている。

三上神楽

兒玉元「広島県無形民俗文化財 三上神楽」(『広島県神社庁報 二葉』133号 広島県神社庁、2017年)11–13頁

備後荒神神楽

田中重雄『備後神楽 ―甲奴郡・世羅郡を中心に―(八幡神社、2000年)

下引地一二編『五行祭祭文(全)』(芸備郷土史刊行会、1974年)

中国観光地誌社編『郷土芸能 五行の神楽』(中国観光地誌社、1979年)

◇主に豊栄神楽をベースに、五行祭の詞章を掲載。

三村泰臣「五行祭のメッセージ」(東広島市豊栄町史編纂委員会・東広島市教育委員会編『豊栄町史 通史編』東広島市、2008年)127–140頁

◇豊栄神楽の五行祭を中心に解説。

永山亀士『聞書 三谿神楽』(郷土誌研究会、1973年)

神弓祭・弓神楽

岩田勝『郷土』39~40号(西城町郷土研究会)

◇奴可郡西部の神弓祭。江戸中期頃の祭文の翻刻。

岩田勝「備後北部の弓神楽による荒神祭り―庄原市川北町久井田―」(『山陰民俗』50号、山陰民俗学会、1988年)6–14頁

◇恵蘇郡南部の神弓祭について、1987年に行った現地調査のレポート。

田地春江「庄原市川北町久井田(旧恵蘇郡)の弓神楽」(『広島民俗』29号、広島民俗学会、1988年)1–8頁

◇上と同じく、1987年に行われた恵蘇郡南部の神弓祭の現地調査のレポート。

鈴木昂太「広島県庄原市比和・高野町(旧恵蘇郡北部)の神弓祭」(『広島民俗』88号、広島民俗学会、2017年)59–72頁

◇恵蘇郡北部の神弓祭について、その祭式や実際についてのレポート。

千田喜博「弓と神楽――神弓祭」(山本ひろ子・松尾恒一・福田晃編『神楽の中世――宗教芸能の地平へ』三弥井書店、2021年)322–323頁

◇現在の庄原市内に伝えられている神弓祭について概説。

田中律子「井永の弓神楽」(『広島民俗』83号、広島民俗学会、2015年)48–63頁

◇甲奴郡上下町を中心に行われている弓神楽(神弓祭)について、現在ほぼ唯一の継承者である著者が解説し、現状を概観。参考資料として手草祭文が付されている。

鈴木正崇「弓神楽と土公祭文―備後の荒神祭祀を中心として―」(『民俗芸能研究』3号、民俗芸能学会、1986年)7–29頁

◇甲奴郡・世羅郡の弓神楽(神弓祭)についての概説を含む。

名荷神楽

志和地の六神儀

三村泰臣「志和地の六神儀:広島県のもうひとつの神楽」(『日本民俗学』176号、日本民俗学会、1988年)120–132頁

三村泰臣「ジュウラセツ考」広島民俗』38号、広島民俗学会、1988年)20–29頁

安芸の神楽

芸北神楽

佐々木浩司『校訂 芸北神楽台本』(川北神楽団、2010年)

佐々木浩司『校訂 芸北神楽台本II 旧舞の里山県郡西部編』(川北神楽団、2011年)

佐々木順三『かぐら台本集』(佐々木敬文、2016年)

佐々木順三「芸北かぐらの民俗性」(『広島民俗』8号、広島民俗学会、1977年)

◇著者はいわゆる「新舞」(新作高田舞)を考案・創作した方で、現在の「ひろしま神楽」の興隆の下地を作ったと言える。しかし、本稿では本来の地域性・民俗性・伝統が軽視されつつある風潮を危惧し、それらの本質を忘れて過度に芸能化することや、次第に豪華になりつつある衣装について警鐘を鳴らしている。

 

谷本浩之「芸北神楽の特色と背景」(『山陰民俗』42号、山陰民俗学会、1984年)

安芸十二神祇

出雲の神楽

佐陀神能

石塚尊俊『重要無形民俗文化財 佐陀神能』(佐陀神能保存会、1979年)

◇現行(とほぼ同様)の詞章を収載している。

山路興造「「佐陀神能」再考 : 「佐陀神能」は慶長期以降の改革神楽である」(『民俗芸能研究』67号、民俗芸能学会、2019年)

岡宏三「佐陀神能をめぐる宗教者と祭祀――神能成立の過程を中心に」(山本ひろ子・松尾恒一・福田晃編『神楽の中世――宗教芸能の地平へ』、三弥井書店、2021年)42–64頁

“出雲神楽”

◇主に旧出雲国一円に伝わっている神楽の総称。地域内で少なからず差異があるが、儀式舞・式三番・能舞という三部構成になっていることが特徴のひとつ。かつては土着の(おそらくは荒神信仰に基づく)神楽があったが、佐陀神能の成立後、その影響を受けて現在の形式に整えられたと考えられる。

石塚尊俊『出雲市民文庫17 出雲神楽』(出雲市教育委員会、2001年)

◇佐陀神能も含め、出雲地域の神楽について解説。

石塚尊俊『槻之屋神楽』(槻之屋神楽保存会、1980年)

島根県古代文化センター編『島根県古代文化センター調査研究報告書 8 大原神職神楽』(島根県古代文化センター、2000年)

島根県古代文化センター編『島根県古代文化センター調査研究報告書 9 見々久神楽』(島根県古代文化センター、2001年)

島根県古代文化センター編『島根県古代文化センター調査研究報告書 17 大土地神楽』(島根県古代文化センター、2003年)

勝部月子『出雲神楽の世界 神事舞の形成』(慶友社、東京、2009年、259頁)

◇出雲を中心とした地域の神楽で広く見られる「七座の神事」について、その成立過程を考察。附録として奥飯石神職神楽の詞章(「出雲神代神楽之巻」)の翻刻を含んでいる。

隠岐の神楽

​隠岐島前神楽

島後神楽

石見の神楽

大元神楽

市山公民館編『傳承読本 だれにもわかる大元神楽』(市山公民館、1989年)

邑智郡大元神楽保存会編『邑智郡大元神楽』(桜江町教育委員会、1982年)

『大元の神々 大元神鎮座地調査報告書』(島根県邑智郡大元神楽伝承保存会、1994年)

山本ひろ子「大元神楽と神懸り」(『別冊太陽 お神楽 日本列島の闇夜を揺るがす』、平凡社、2001年)94–95頁

白石昭臣「石見における大元信仰」(『山陰民俗』25号、山陰民俗学会、1975年)22-33頁

高橋重夫「石見山間部の大元神と大元神楽―邑智郡羽須美村阿須那地方の場合―」(『山陰民俗』26号、山陰民俗学会、1976年)15-22頁

石見神楽

篠原實編『校訂石見神楽台本』(復刻版)(細川神楽衣装店、浜田、1981年、236頁)

渡辺友千代「石西地方の神楽について」(『山陰民俗』27号、山陰民俗学会、1976年)1-7頁

大庭良美「石見神楽雑記」(『山陰民俗』29号、山陰民俗学会、1977年)42-51頁

備中の神楽

​備中神楽

山陽新聞社出版局編『備中神楽』(山陽新聞社、岡山、1997年)

澤座博志編『備中神楽思考』(奥備中地域伝承文化備中神楽資料保存委員会上市実行委員会、新見、2005年)

神崎宣武編「備中神楽の研究 歌と語りから」(美星町教育委員会、1984年)

神崎宣武「神楽と五行思想 備中の五行神楽から」(『別冊太陽 お神楽 日本列島の闇夜を揺るがす』、平凡社、2001年)110–111頁

妹尾儀一『備中神楽言立集』(小田郡備中神楽振興会、1977年)

上田忠実『神明社言立帳』上・中・下(備奥史料会、神郷、1975-1976年)

© 2020- by Yoshihiro Senda. Proudly created with Wix.com

  • ホワイトFacebookのアイコン
  • ホワイトTwitterのアイコン
bottom of page